幸せにしたいのは君だけ
「そのうえで俺を選んで、俺に恋をしてほしい」

「……なんで私、なんですか?」

「本当、佳奈はその質問をよくするな」


髪を弄んでいた指がそっと頬に触れる。

輪郭をなぞるように滑る指はとても優しくて、胸に甘い痛みがはしる。


「ほかの誰もが口にしなかったことを、君だけが素直に口にしたから」

「なんの話ですか?」


まったく見当がつかない。


「そのうちわかるよ。まあ、気づかなくても俺は全然かまわないんだけど」

「私は気にします!」

「ハイハイ。とにかくそういうわけだから。佳奈に恋の助言はするよ、俺自身のためにね。ほかの男を選ばないように囲い込むから覚悟して」


とびきり色香のこもった眼差しで、物騒な言葉を言わないでほしい。

そもそも設定がおかしい。


「……本気の恋ができるよう、応援してくれるんじゃないんですか」

「もちろん。その本気の恋の相手として、きっと君は俺を選ぶ」


根拠のない自信に呆気にとられる。

まるで彼以外の選択肢がないような言い方だ。


「俺は佳奈の彼氏として結構な有望株だと思うよ?」


自分の価値をよく知ったような言い方が癪にさわる。

しかも、それが事実なのだから反論の余地がない。


きっと世間一般の女性たちから見たら、夢のような状況なのだろう。

あの佐久間グループの御曹司に、告白めいたものをされているのだから。

でも素直には頷けない。
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