幸せにしたいのは君だけ
翌日。

枕元に置いていたスマートフォンの大きな着信音で目が覚めた。


「も、もしもし……?」

『おはよう、佳奈。よく眠れたか?』


聞こえてきた爽やかな低音に、一気に現実の世界に引き戻された。


「け、圭太、さん?」

『朝食の準備ができてるから。今からそっちに行く』

「ま、待ってください! せめてあと十五分、時間をください!」


そうだった。

私は昨夜、圭太さんの実家に泊めていただいたんだ。


眠りにつく前に、申し訳なさを感じながらも、豪華な浴室や洗面所を使わせていただいた。

高級ホテルと見まごうばかりの設備やアメニティに恐縮しきりだった。

その後、興奮と緊張で眠れないと思っていたのに、寝心地抜群のベッドに横になった途端、意識が遠のいてしまった。

……これでは警戒心がなさすぎると言われても否定できない。


そもそも、私は自室以外で眠るのが苦手だ。

枕が変わったら眠れない、といったような繊細なものではないけれど、無意識に緊張したり、気を張ってしまってなかなか寝つけない場合がほとんどなのだ。

現に家族や友人たちと旅行に出かけても、いつも最後まで起きている。

千埜にはそんな風には見えないのに、といつも言われている。


それなのに、どうして昨夜はあんなにすんなりと眠れてしまったんだろう。
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