幸せにしたいのは君だけ
頭の片隅でそんなことを考えながら、慌ててベッドから出て、洗面所に向かった。

最低限の身づくろいを大急ぎで整えていく。


大きな鏡に映るのは、血色の少し悪い二十六歳の自分。

取り立てて美人でも可愛くもない。

なにもかも平凡な自分。


そんな私のなにをあの人は気に入ったというのだろう。

彼の真意がまったくわからない。

頭に浮かんだ疑問をかき消すように、バシャリと大きな音を立てて顔を洗った。


「おはよう、佳奈」


きっちり十五分後にノックされた扉の向こう側に佇む圭太さん。

真っ白なVネックのセーターにカーキのパンツが爽やかだ。

私とは対照的な完璧な装いに息を呑む。私服姿を初めて見た。

文句のつけようがないくらいにカッコいい。


「……おはようございます」


彼に先導されて、ダイニングルームへと向かう。

これまた豪華な内装の部屋には美味しそうな朝食の用意がされていた。


「……こんなに豪華な食事を作っていただいてすみません」

「いや、皆とても喜んでいたよ? とうとう本命の女性ができたのかって質問攻めにあったくらい」


本気とも冗談ともつかないセリフをさらりと口にする。

反射的に頬がカッと熱をもつ。

まったく朝から勘弁してほしい。
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