幸せにしたいのは君だけ
「ねえ、あの人すごくカッコいい!」

「彼女と待ち合わせかな?」


周囲を通り過ぎる女性たちの興奮した声が耳に届く。

周りを見渡すと何人かの女性たちがある場所を一心に見つめていた。


――そこにいたのは圭太さんだった。


長いまつ毛を少し伏せ、ゆるく腕を交差して柱に身体を預けている。

高い身長に長い足、大きな黒縁メガネが小さな彼の顔をさらに際立たせる。

紺色のコートを羽織った何気ない装いなのに、人目を引く。

圭太さんの周囲だけ空気が違うように思える。


……本当にどうしてあんな人が。

なぜ私と出かけたいと思うのだろう。

彼ならどんな女性だって選び放題のはずなのに。

わざわざ私みたいに可愛げもない、面倒な相手を選ぶのだろう。


しかもきちんと話をするようになって、数日ほどしか経っていない。

そんな短い期間で私を本気の恋の相手に選ぶなんて馬鹿げているし、ありえない。


「佳奈」


周囲の空気を一瞬で変える甘やかな声が響く。

雑踏に立ちすくむ私を見つけた彼が颯爽とやって来る。
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