幸せにしたいのは君だけ
「可愛い、な」


私の姿を至近距離から凝視した圭太さんが、開口一番そう口にした。


「か、可愛くなんて」

「よく似合ってるよ。それ、佳奈のお気に入りの服だろ?」

「え……」


なんでわかるの?


「佳奈の表情が嬉しそうだから」


言葉にしない私の気持ちを読んだかのように言う。


「じゃ、行こうか」


周囲から突き刺さるような視線が向けられているのに、この人はそんなもの歯牙にもかけない。

私の左手の指を自分のものと絡めて歩き出す。


「……あの、手」

「デートだから繋ぐのは当たり前だろ? それに逃げられたくないから」

「に、逃げたりしません!」


デートって……ただの買い物じゃないの?


「ハイハイ。じゃあとりあえず敬語はやめろよ」

「……急に言われても、圭太さんは年上ですし」

「恋人なんだから歳は関係ないだろ。それに三歳しか変わらない」

「……善処します」


三歳差。

たった三年、されど三年。

その時間の差だけでこれだけ気遣いのできる大人になれるのだろうか。

三年後の私は澪さんのように素敵な女性になれているのだろうか。

大好きな人の隣で笑っていられるのだろうか。


自分の中にふいに浮かんだ“大好きな人”という単語にドキンと心が反応した。

反射的に隣を歩く男性を見上げてしまう。
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