幸せにしたいのは君だけ
「なに?」


私の視線に柔らかく目を細める。


「……いえ、なにも。相変わらずカッコいいなあと思っただけです」


思わずするりと本音がこぼれた。

慌てて口を押さえるけれど、後のまつりだ。


私ってばなにを……!

どれだけ浮かれて、気が緩んでるんだろう。

こんなの、彼に好意があると言っているようなものだ。


「へえ、佳奈にそう言ってもらえるのは嬉しいな」


動じもせず、さらりと返答される。


「好きな女の子にカッコいいって言われるなんて男冥利に尽きる」


……きっと今日一日、私の心臓はもちそうにない。


「視力、悪いんですか?」


暴れだす鼓動を誤魔化すように尋ねる。


「ああ。仕事はコンタクトなんだけど」


行こうか、となんでもないように手を引いて歩き出す彼。

買い物は思った以上に楽しいものだった。

この人のセンスがいいのは今日の私服からもわかっていた。


『これ着てみて』

『佳奈はこっちのほうが似合うんじゃない』

『この色とこの柄ならどっちが好き?』


私の好みを尋ねながらも、次々に洋服を選んでいく。

しかも今までの私なら敬遠していたような高級ブランドショップのものばかり。

肌触りも着心地も抜群の服に気後れしながらも、うっとりしてしまう。


『可愛い』

『よく似合ってる』


照れもせず褒めてくれる声にいたたまれず、赤面してしまったのは一度や二度ではない。
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