幸せにしたいのは君だけ
「あの、選んでくださるのはありがたいんですけど、こんなにたくさん、しかもこんな高級な洋服、私には手が出ないので……」


おずおず口に出す私に、彼がニッと口角を上げる。


「俺が佳奈にプレゼントするに決まってるだろ?」

「ダ、ダメです。こんな高いものいただけません。第一、プレゼントされる理由がありません」

「好きな人を着飾りたいっていう俺のワガママだと思ってくれたらいいよ」

「そんなワガママ、きけません!」

「でももう買っちゃったからね」


試着室から出てきた私に見せつけるように、大きな紙袋を掲げるこの人は絶対に確信犯だ。


「お、お支払いします」

「いらない」

「そういうわけにはいかないです」

「じゃあ、次のデートで俺の選んだ服を着てきて」


そんなの、私に都合のいい展開でしかないのに。

しかも“次のデート”って。

一度きりじゃないの?


「次って……」

「佳奈は俺の大事な恋人なんだから、当たり前だろ?」


長い指がするりと私の髪を梳く。


「佳奈の髪は本当に綺麗だな。触り心地がいい。巻いてるのも好きだけど、今日みたいに真っ直ぐなのも似合ってるよ」


時間がなかったせいもあるが、今日はそのまま髪をおろしてきた。

休日はあまり巻いたりしない。

元々シンプルな服装が好きなせいもある。


小さな変化のひとつひとつを、どうしてこの人はこんなにも掬い上げてくれるのだろう。

こんなのは反則だ。

そんな真似をされたら心が傾かずにはいられなくなる。
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