幸せにしたいのは君だけ
「……服のお礼を、なにかさせてください」

「そんな気遣いいらないのに、佳奈は律義だな」


白い歯を見せる彼は自分の魅力をわかっているのだろうか。

店員も、すれ違う人々からも熱い視線を向けられている、この事態に気づいているのだろうか。


「ちょっと休もう」


そう言って彼はショッピングモールの屋上へと向かう。

その場所は植栽が整備されていて、自然の緑が目に優しい、憩いの場になっていた。


気温がそれほど高くない冬の日のせいか、人影はほとんどない。

それでも、私にはそのほうがありがたかった。

火照った頬とのぼせている気持ちを冷やせる。

そう思うのに、傍らに立つ男性の存在に圧倒される。


ギュッと絡んだ指に無意識に力を籠める。

圭太さんは、私にちらりと視線を向ける。

けれどなにも言わずに同じように握り返してくれた。

まるで私の心の葛藤を知っているかのように。

伝わる体温と、包み込まれる大きな手が心地よい。


最初受付で声をかけられた時はそんな風には思えなかった。

なんて強引で自分勝手な人だろうと思った。

澪さんは、素敵な幼馴染みだと言うけれど、とんでもない。

性格が悪すぎると憤慨していたくらいだった。
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