幸せにしたいのは君だけ
「……可愛い」


誘惑するような声が耳に響く。

目に、頬に、額にキスの雨が降ってくる。

柔らかく触れる唇の感触にピクリと肩が跳ねる。


そのあと、先ほどとは比べ物にならないくらいの激しさでもう一度唇が重なった。

なにかを伝えるような性急なキスに、頭の中が真っ白になる。

呼吸さえ苦しくなってくる。

心が奪いつくされそうな、そんなキスだった。



何度も繰り返されるキスに時間の感覚もわからなくなる。

身体中から力が抜けて、立っていられなくなった私を支えるように彼が強く抱きしめる。


「……早く俺を好きになって」


キスの合間に囁かれる声に、胸が震える。

どうしてそんな意地悪を言うのだろう。


私はあなたに惹かれたくはないのに。

私にはなにもないのに。

……澪さんみたいにはなれないのに。


さあっと足元を吹き抜ける風の冷たさが身に染みた。
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