幸せにしたいのは君だけ
「――へえ、それで? 御曹司の家に泊まらせてもらったわけね?」


月曜日。

昼休みになるやいなや、わざわざ受付にまで足を運んでくれた親友に、近くのベーカリーカフェに連れていかれた。

そして合コン後の出来事について根掘り葉掘り聞かれる。


「まあ、予想通りだけど。あんな場所にまでわざわざ迎えにくるくらいだもの。よっぽど本気じゃなきゃできないわよね」


ホットコーヒーのカップを華奢な指で持ち上げながら、親友が納得したように言う。

合コンについて知った経緯を話した折にはまさか、と驚いていた。


「私、九重の打ち合わせで初めて佐久間さんを間近で見たけど、本当完璧なイケメンよね。結婚したい男性社員上位なのも納得よ。仕事の時はあんなに冷静沈着だったのに、そんな情熱的な一面があるなんて意外だったわ」

「……自分勝手で強引すぎるけど」

「佳奈の前だからじゃない?」

「なに、それ」

「好きな人の前では、余裕もなくすってことじゃないの? 告白されたんでしょ?」

「……そうかもしれないけど……よくわからない。私のなにがいいのかも理解できないし。最初は本気で嫌われているとしか思えない態度だったし」

「そう思ってるのは佳奈だけじゃないの? 少なくとも合コンに来た佐久間さんは佳奈しか見てなかったわよ。まあ、益岡は可哀そうだけど、佐久間さん相手じゃ無理ね」

「……ごめんね」

「いいわよ、元々乗り気じゃなかった佳奈を連れて行ったのは私だし。その代わり、佐久間さんのカッコいいご友人のひとりでも紹介してもらえたらありがたいけど?」

「……た、頼んでみる」

「フフ、冗談よ」


申し訳なさに項垂れる私に、千埜は茶目っ気たっぷりに言う。
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