幸せにしたいのは君だけ
「あれだけの男性だから、海外にいてもモテるだろうし、不安は尽きないだろうけどね。佳奈は、どんと構えているように見えて心配性だから」


さすが親友は私の内面というか、恋愛事情をよく知っている。


「……私が九重に勤めていたら、なにか変わってたかな」

「引き抜かれた先輩みたいにって?」

「澪さんみたいになれないのはわかってるけど。総務事務の経験もないし」

「そう? 佳奈はいつも自分は仕事ができないってよく言うけど、私はそうは思わないよ。その先輩が抜けた後、受付って数人新人が入ったじゃない。その指導をしたのは佳奈でしょ」

「それは、私が一番年長者になったから……」

「でも、受付業務についてマニュアルを作成したんでしょ? 今まで曖昧だった仕事内容をきちんと整理したって聞いたわよ」

「なんで知ってるのよ」

「総務課の朋井(ともい)課長とうちの(おく)課長、同期なの知ってるでしょ? 奥課長が褒めてたわ。我が課もそうやって引継ぎがスムーズにできるように、事務マニュアル作成したいって。ああいうのってすごく大変じゃない、時間だってかかるし」

「でも、今後を考えたら、必要な措置かと思って」

「佳奈はそれが当たり前にできるから、すごいのよ。きちんと先を見てるでしょ。総務事務経験がないなら、朋井課長に言って異動させてもらえばいいじゃない」

「それはそうかもしれないけど……」

「何事もやってみなきゃわからないわよ。それに仕事に打ち込んでたら、恋人に会えない寂しさも遠距離も忘れられるかもよ」

「……恋人じゃないから」


否定しながらも、親友の忠告がなぜか強く心に残った。
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