幸せにしたいのは君だけ
「……よくご存じですね」

『九重に異動したての頃は、散々愚痴を聞かされたからなあ。うまくいかない、自信がないってよく泣き言を並べてたよ。副社長の秘書に抜擢された時も、それはもう悩んでたし』

「澪さんってそんなイメージがないんですけど……」


意外だった。

澪さんはどんな時も飄々と仕事をこなしているように見えたのに。


『さすがに、後輩の前でみっともない真似はできないと思ったんじゃないのか?』


彼の口調からはふたりの気安い関係性が感じられた。

どうしてもその部分がひっかかってしまう。


「それでも、なんでもないようにやり遂げてしまう澪さんはすごいと思います」

『まあ、澪は澪なりに悩みながら努力をしていたみたいだけど。でも、佳奈は澪に似ているところがあると思うよ。一度引き受けた仕事は中途半端にしないだろ』

「なんで、私の仕事に取り組む姿勢なんて知ってるんですか」

『澪がよく話してたからな。佳奈に話しかけたのは最近だけど、来社するたびに見てたから知ってるよ。いつも丁寧な対応をして、周囲によく目を配っているなって思ってた』

「私が、ですか?」

『ああ、佳奈はひとつひとつの仕事をこなすのも上手だけど、どちらかというと全体を見回す能力が優れていると思う。足りない部分をさり気なく補ったり、誰かの補佐に入るのもうまいから。視野が広いんだな』


そんな風に誰にも言われた覚えはない。
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