幸せにしたいのは君だけ
『ほらな、その課長は人を見る目がある。というか、佳奈の能力をよく理解していると思うよ。全体を見回して裁量できるというのは、大事な仕事のひとつだよ。どんなに個人能力が高くてもそれをうまく配分しないと仕事はまわらないから』

「そう、だったんですね」


そういえば澪さんを秘書に推薦したのも、その内容を受け入れたのも課長だったと聞いた。

先輩の場合は、それ以上に違う事情も絡んでいたに違いないだろうけれど。


『事務の改善点、なにか考えているのか?』

「まだ内容を少ししか教えていただいていないので、なんとも言えないのですが……他課とも連携した事務の統一や改善会議とかをできたらいいなあと思うんです。それぞれの課だけの特殊ルールがあったり、書式様式が違ったりしているので……非効率な気がして」

『へえ、面白い。それができたら大幅な時間短縮につながるし、作業効率も上がるな。さすが佳奈』

「いえ、そんな大したものではないです」


こんなのただの思いつきだ。

事務を知り、単純に不思議に思った点や、以前千埜に聞いていた様式の話を思い出しただけ。

誰にだってできるものだ。

なにも特別な話ではない。


『いや、そもそも気づくのがすごいし、それを改善するために実行しようと思えるのが素晴らしいと思うよ』


優しく褒めてくれる声が嬉しくて、胸の奥が苦しくなった。

この人はこうやっていつも私の欲しい言葉をくれる。

当たり前のように背中を押して認めてくれる。

それがどれだけ私を勇気づけて幸せにしてくれているか、気づいているだろうか。
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