幸せにしたいのは君だけ
その後、私たちは店を出て、少し散歩をすることにした。


「俺の実家近くにある美術館に行かないか? ここからすぐ近くなんだ」

「美術館、ですか?」

「ああ、美術館には素晴らしい作品が所蔵されているんだ。でもそこの庭園が見事でね。小さい頃からよくその場所で遊んでいたんだ。最近は忙しくてなかなか訪れてなかったんだけど。俺のお気に入りの場所なんだ」


懐かしそうに目を細めて言う。


「素敵ですね、是非行きましょう」


私の返事に、彼は嬉しそうに目を細める。

それから自然な仕草で指を絡めてくる。

混ざり合う体温に安心して、なぜか泣きたくなった。


ああ、私、この人に本当に会いたかったんだ。


ただ隣を歩いて、顔を見て話ができる。

手が繋げる。

その意味を、その有難さを、心から想った。


頭の中から、昨日あれほど悩んでいた不安が、この時はすっぽりと抜けてしまっていた。


「……あなたが好きです」


するりとこぼれ落ちた本音。

膨らんだ彼への想いは、私の中に留めきれず、こらえきれなくなっていた。
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