紡ぐべき糸

一人っ子の啓子は 過保護に 育てられていた。


父は 役所勤めで 母は 工場の食堂で パートをしている。

決して 裕福な家では ないけれど。


両親は いつでも 啓子を 最優先に 生活していた。
 


「うちなんて 授業料が高いから 交通費くらいは バイトしてって言われて。学校よりも バイトの方が 忙しかったよ。」

と岡部さんは 笑顔で言う。
 

「うちも。大学に入ったら お小遣い 貰えなくなって。しかも これからは 奨学金の返済があるし。」

と吉野さんも言う。
 

元々 啓子は 地味で あまり遊ばない。


お小遣いも 多く 使うわけではないけれど。


交通費も洋服代も 全部 親にもらっていた。



バイトをするという発想は 啓子にも 両親にもなかった。

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