紡ぐべき糸
「ねえ、美穂ちゃん。誰かを好きになるって どんな気持ちなのかな。」
啓子は 思い切って美穂に聞く。
「えー。私 わからないよ。好きな人いないし。」
美穂は 困った顔をする。
地味で 奥手な二人は 片思いさえ したことがなかった。
聡に憧れて 聡を 見つめることだけで 啓子は 幸せな気持ちになれる。
聡が 事務所にいると つい聡を 見つめてしまう啓子。
聡が 楽しそうに笑っていると 啓子も 楽しくなる。
一言でも 話した日は 一日中 胸が熱かった。
啓子にとって 初めての感情。
どうすることも できないまま ただ 自分の気持ちに 振り回されている毎日。
それでも 好きな人がいることは 楽しかった。
「あーあ。啓ちゃん いいなあ。私も 誰か 好きな人がほしいよ。」
ため息混じりに言う美穂に、
「でも 片思いだから。その人は 私のことなんか 何とも思ってないの。」
と啓子は言って ため息をつく。