紡ぐべき糸
啓子は 聡が いつも遅くまで 残務を 片付けていることを知る。
聡は努力している。
職場に 馴染んでいることも 早く 仕事を覚えていることも。
全部 聡の 努力があるからだと 啓子は 初めて思う。
「横山君の書類 いつも きちんと揃っているね。」
営業部から 上がってきた書類を 確認していた 田村さんが言う。
「はい。」
啓子は 驚いて 返事をする。
田村さんは クスクス笑って 啓子を見て、
「大丈夫。秘密にしておいてあげる。」
と悪戯っぽく言う。
「えっ。何ですか。」
啓子は 自分でもわかるくらい 頬が熱くなっていた。
「林さん 純情だから。いつか 届くといいね。」
と優しく言われて 啓子は 泣きそうな気持ちになる。
無意識に 頷く啓子に 田村さんは クスッと笑い、
「林さん、初めてなの。」
と聞く。
「ずっと 女子校だったから。」
啓子は 俯いて小さく答える。
顔を 上げられないくらい 頬が熱い。
「いいな。若いって。」
と田村さんは言って 書類に目を戻す。