紡ぐべき糸

営業社員は 事務作業が 苦手な人が多い。


でも 聡の提出する書類は いつも 綺麗に 揃っていた。


田村さんに 言われる前から 啓子は 気付いていた。



丁寧な字で きちんと書かれた 聡の書類に 啓子は 感心していた。
 

営業スキルを 覚えるだけでなく 聡は 事務処理も 把握している。


有能だから。


でもそれだけ 聡は 努力している。


いつも 遅くまで 会社に残って 残務を 片付けている。
 


明るくて カッコ良いだけなら 聡を 好きにならなかったかもしれない。


聡の 向上心と努力に 惹かれたのかもしれない。


そう思ったとき 啓子は 自分の生活を 情けなく思った。
 


自分は 今まで 前向きな努力を したことがない。

現状を 維持することだけ考えて。


そんなことだから 聡は 啓子の存在さえ 気に留めてくれない。


啓子は 変わりたいと 強く思う。



聡に 好かれなくてもいい。



せめて 聡を 好きな自分を 誇れるように。

 


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