紡ぐべき糸
啓子にとって アイドルのコンサートで 花束を渡すような 気持ちだったけれど。
これから 聡と 付き合いたいとか 聡に 好きになってほしいとか。
啓子は そこまで 期待していなかった。
ただ 自分が 一歩 前に進みたいと 思っただけで。
事務所に戻った啓子は 席に座って ため息をつく。
隣の席の 田村さんが 啓子を見て 笑顔になる。
「頑張ったじゃない。」
と言われて 啓子はハッとする。
小さな包みを持って 事務所を出る啓子に 田村さんは 気付いていた。
「えっ。」
と頬を染める啓子。
「大丈夫よ、誰にも言わないから。」
田村さんは 口の前に 指を立てて、啓子に微笑む。
思わず頷く啓子。
その時は満足していた。
チョコを渡せたことで。
一歩踏み出した自分に。