紡ぐべき糸

「あの。横山さん 好きな人 いるんですか。」

啓子は 思い切って聞く。
 

入社研修の時 吉野さん達が 言っていた。

聡は その人と どうなったのだろう。


啓子は ずっと気になっていた。


失うものは ないという思いが 啓子を 大胆にする。
 

「いるよ。片思いだけどね。」

聡は 苦笑しながら言う。
 

「横山さん 告白しないんですか。」

不躾に 踏み込んでいく啓子。
 

「何度も 告白しているけど 相手にされないよ。」

聡は 嫌な顔もせずに 誠実に 答えてくれる。
 

「横山さんでも?その人 どんな人ですか?」

聡の言葉に驚いて 啓子は言う。
 

「すごく綺麗で 頭が良くて。自分に芯が通っていて。努力家だよ。」

好きな人のことを話す 聡の目は 柔らかくて 温かい光を放つ。
 

「そんなすごい人。」

聡の 熱い思いを 感じながら 啓子は ポツンと言う。
 

「そう。すごく 魅力的な人なんだ。優しくて 一緒にいると 癒されて。」


今まで 見たことがない 聡の 温かい目に 啓子は 打ちのめされていた。


聡を こんな目にさせる人。

見たこともない その人を 啓子は 妬んだ。
 



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