紡ぐべき糸
あの日から 啓子は 自分の身なりにも 気を使うようになった。
それまでの啓子は あまり おしゃれをしなかった。
美人じゃないから おしゃれしても 似合わないと思っていた。
年ごろの女の子なのに。
啓子は あまりにも 無造作だった自分に 反省した。
美人じゃなくても 気を使うことは 大切だと。
努力することで 少しは 綺麗に見えることを 啓子は知った。
ただ 伸ばしていた髪を 肩までのボブに 切った翌朝 聡は 驚いた顔で 啓子を見た。
「髪、切ったんだ。似合うよ。」
と優しく 微笑んでくれた聡。
お茶を出す啓子は、
「ヤダ。手が 震えちゃう。お茶、こぼしますよ。」
と言って笑う。
聡も声を出して笑い、
「いい、いい。本当に こっちの方が 全然いいよ。」
と続けて 啓子から お茶を受取った。
そんな 小さなことが 一つずつ 啓子の自信になっていく。
いつも下を向いて オドオドしていた自分を 変えることができると。
聡を好きになってよかったと 啓子は 心から思っていた。