紡ぐべき糸

13


翌年のバレンタインデーも 啓子は 営業に向かう聡に チョコを渡した。
 

「林さん。」

と困った顔で笑う聡に 
 
「ステーキ狙いです。」

と啓子は 明るく笑った。

聡は優しい目をして、
 

「じゃあ 去年のコンビニでね。頑張って 定時で上がるから。」

と言ってくれた。

啓子は 笑顔で頷いて 
 
「何か 七夕みたいですね。」

と言い 聡に 手を振った。
 


その夜 啓子が 心を開いて 素直に話すことで 聡の表情は 軽く楽しそうだった。


自然な笑顔で 寛ぐ聡を見て 去年の自分は とても 迷惑な存在だったと 啓子は思う。
 

自分の 緊張に夢中で 聡の顔を 見ることもできず。


嫌われることが怖くて うまく 返事もできなくて。



自分は 気を使っている つもりだったけれど。


逆に 聡に 気を使わせていた だけだった。
 


今 目の前で 笑っている聡を見て 去年の聡は 相当 無理をしていたと 啓子は思う。

ただ 迷惑なだけの啓子に 聡は 誠実に応えてくれた。


今は 同期の友達に 昇格できたような気がした。


楽しそうな 聡の笑顔が 少しだけ 啓子に自信をくれた。
 


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