紡ぐべき糸
「横山さん。まだ早いから 少し 遠回りして 帰りましょう。」
食事が終わって 聡の車に乗ると 啓子は言った。
「いいよ。じゃ ちょっと ドライブして帰ろうか。」
聡は 笑顔で言って 車を発進させた。
車の中で 前を向いていると 向かい合っている時よりも 啓子は リラックスできた。
「私 去年 横山さんに言われたこと ずっと考えていました。」
啓子は 前を向いたまま言う。
聡はフッと笑って、
「俺 ひどいこと 言ったよね。ごめんね。」
と優しく言う。
「いいえ。おかげで 私 少し 変われたから。今日は お礼が言いたかったんです。」
啓子は 少し照れて 恥ずかしそうに言う。
「うん。林さん 明るくなったよね。今の方が ずっといいよ。」
聡は 優しい口調で 言ってくれる。
「私 思いやりとか 何も わかってなかった。自分の気持ち 正直に言わないのが 気使いだと思っていました。」
啓子が言うと、
「言い過ぎるのも 問題だけどね。」
と聡は明るく笑う。
「まだ学生気分で。全然 子供でした。」
啓子の言葉に、
「そう思っているうちは まだ子供なの。」
と聡は言う。
「そうでしょうか。」
と啓子が拗ねて言うと
「うん。俺も まだ子供だけどね。」
と聡は そっと啓子を見て 優しく笑った。