紡ぐべき糸
いつもの バレンタインデーのように 聡の車に乗って ステーキハウスに向かい。
聡は 明るく笑っているけれど。
啓子は 気付いてしまう。
何故 聡は 幸せそうじゃないのだろう。
聡の 瞳をかすめる切ない光。
聡は 何に苦しんでいるのだろう。
いつまでも あんな目をしていたら 諦めることなどできない。
「横山さん 片思いの人と 上手くいってないんですか。」
啓子は 思い切って聞いてみる。
「上手くいっているよ。」
そう言った時 聡の目を 寂しさが横切った。
聡は 何かに 苦しんでいる。
そして その苦しみは 聡を 切なく輝かせてしまう。
諦めることなどできないくらい。
むしろ 今までより強く、啓子は 聡に惹かれていた。
「でも。どうして 私と食事を。」
と言って 啓子は 言葉を飲み込む。
「だって 林さん チョコくれたじゃない。これは チョコのお礼だから。」
そう言う聡は いつもの 明るい笑顔だけど。
でも、やっぱり違う。
出張から 帰ってすぐの 幸せそうだった 聡ではない。
啓子は じっと 聡の瞳を見つめていた。