紡ぐべき糸

17


その年の バレンタインデー。


外回りに出掛ける聡に 啓子は あえて チョコを渡さなかった。
 

《今日は 食事の時に チョコを渡します》

昼休み 啓子は 聡に LINEを送る。
 
《了解》

と聡からは すぐに返事が来た。
 

いつも通り コンビニで 聡の車に乗って
 

「横山さん 私から チョコもらえなくて 驚きましたか。」

と啓子が 笑って言うと、
 
「うん。嫌われたと思ったよ。」

と聡は ケラケラ 笑いながら答える。
 
「寂しかったですか。」

啓子も 笑いながら聞く。
 
「林さん 大人をからかっちゃ 駄目だよ。」

と聡は 優しく啓子を睨む。
 
「私も もう大人なので。」

啓子が 澄まして答えると、
 
「そうだね。林さんも もう二十八才か。いい加減 結婚相手探しなよ。」

と聡は 楽しそうに言う。
 
「そうしたら 横山さん 寂しくなりますよ。」

と啓子も 明るく答える。


フッと 啓子を見た 聡の瞳が また 寂しく翳ったことに 啓子は気付いていた。



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