紡ぐべき糸

ざわめきの中 聡は ひっそりと 外に出る。


美咲が 本当に 出てくるのか 半信半疑だったけれど。

都会の雰囲気を 身に付けた美咲を 聡は どうしても 抱きたいと思っていた。

そうすれば 自分も 都会の人に 負けないような気がした。
 


車の中で しばらく 音楽を聴いていると 美咲が 出て来るのが見えた。
 

「本城、こっち。」

聡は 車を降りて 手を振る。


美咲は 衿にファーの付いた 白いコートを着て 小走りに 聡の車に向かってくる。


夜の中 浮かび上がる 美咲の姿は 一瞬 天使に見えた。
 

「やっと抜けられた。」

美咲は 助手席に座ると 笑顔で 聡に言った。
 

「無理に誘って ごめん。」

美咲の笑顔に ドキッとしながら 聡は言う。
 

「ううん。帰りたかったから。丁度よかったの。」

と美咲は答えた。
 

「もっと みんなと 話したかったんじゃない?」

美咲の言葉が 意外で 聡は聞く。
 

「私 昔の自分 好きじゃないから。」


と美咲はサラッと言う。



とても 重い言葉なのに。




聡は 戸惑って 美咲を 見つめてしまう。
 


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