紡ぐべき糸
18
「林さん 少し 俺のこと 話してもいいかな。」
と言って聡は そっと 目を伏せた。
「もちろんです。」
啓子が静かに頷くと
「俺の彼女 大学生の時から ずっと 東京にいるんだけど。俺 八年振りに会った時 いきなり彼女に 結婚を申し込んだの。彼女を 呼び戻したくて。結婚を 口実に使ったんだ。」
聡は 言葉を切りながら 話し続ける。
「彼女 考えさせてって 言ったよ。当たり前だよね。俺達 付き合っても いなかったから。ずっと 俺の片思いで。彼女にとって 俺は ただの同級生だから。」
啓子は 静かに 話し続ける聡を じっと 見つめていた。
「彼女 丸の内の 一流企業で 働いていて。こんな地方では 想像もつかないような 生活をしているんだ。俺 時々 彼女に会いに行って。東京で 過ごす週末は 別の世界でさ。楽しいんだ。夢みたいに。俺 段々 それで良いと 思い始めていて。自分から プロポーズしたのに。」
聡の声は 切なく 啓子の胸に響く。
何も言えないまま 啓子は 聡の続きを待つ。
「俺 だんだん 結婚を申し込んだ事 迷い始めていて。たまに会う 夢の時間を 日常にしたくないって思って。酷いよね。」
聡は 微かに笑って 啓子を見る。
啓子は 静かに首を振る。