紡ぐべき糸

聡が 前を向いたように 啓子も 聡を 諦めなければいけないと思う。

聡は 啓子を 求めていないのだから。


わかっているけれど。


でも 毎日 聡の姿を見ていたら 諦めることなどできなかった。
 

少しずつ 明るくなっていく聡は 以前よりも ずっと素敵になっているから。


大きな悲しみを 乗り越えて 聡の瞳は深く 温かくなっている。


入社した頃の聡は いつも 元気で明るかった。


努力すれば 希望は叶うと信じて。



それまで そんな風に 生きてきのだろう。


今 聡は 一回り大きくなった。


温かさと 包み込むような優しさを 手に入れた。



叶わなかった思いの 代償に。
 



諦められるはずがないと 啓子は思ってしまう。


聡は 今も 啓子の目の前に いるのだから。

 
そして 以前よりも 温かい目で 啓子に 笑いかけるから。
 



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