紡ぐべき糸

20


聡と啓子は バレンタインデー以外 一度も 食事をしたことがなかった。

入社以来 十年近く 一緒に 仕事をしているのに。


だから 聡の 急な誘いは 啓子にとって 不安でしかなかった。
 

「ごめんね、急に誘って。」

コンビニで 車に乗った啓子に 聡は 優しく言う。
 
「いいえ。どうせ暇だから。」

啓子も 明るく答える。
 
「デートの約束とか なかった?」

とからかうように 言う聡。
 
「デートは週末。その方が ゆっくりするでしょう。」

と啓子が 笑顔で言うと
 
「えっ。林さん 彼氏いるの。」

と聡は 驚いた顔を 啓子に向けた。
 
「いませんよ。知っているでしょう。」

啓子は 少し拗ねた声で 答える。
 
「焦った。」

とポツンと言う 聡の言葉は 何を 意味しているのか。

啓子は 探るように 聡の横顔を 見つめた。
 


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