紡ぐべき糸

「待っていてくれて、ありがとう。」

聡が もう一度言った時 啓子は ワッと 泣き出してしまった。
 

初めて 聡に 唇を塞がれて 幸せと不安が せめぎ合う。


初めてだということに 気後れを感じた時 聡が ありがとうと言ったから。


聡を 待っていたことを 喜んでくれたから。
 


子供のように しゃくり上げる啓子が 泣き止むまで 聡は 抱きしめていてくれた。

フーッと 大きく息をついて 啓子が 顔を上げると、
 

「落ち着いた?」

と聡は 優しく聞く。
 
「はい。ごめんなさい。」

啓子は 小さな声で答える。
 

「泣き虫だな、啓子は。」

啓子の瞳を じっと見て 聡は 優しく言う。


初めて “ 啓子 ” と呼ばれた驚きで 瞬きもせずに 聡を見つめる啓子に、


「明日 会社で会っても 普通にしてよ。」

と聡は言う。


啓子は 子供のように コクリと頷く。
 


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