紡ぐべき糸
「今は ペンダントだけど。いつか 指輪を貰ってほしい。」
聡の言葉を 不思議そうな顔で 啓子は聞いている。
「どうして。どうして私に。」
やっと一言 小さく答える啓子に、
「これからは 恋人として 俺のそばに いてほしい。」
真っ直ぐ 啓子の目を見て 聡は言う。
「嘘。うそでしょう。」
啓子は 怯えたように 手を顔に当てる。
「林さん 綺麗になって 明るくなって すごく良い女になったよ。もう 八年前の 林さんじゃないんだよ。」
聡が言うと 啓子の目から 大粒の涙が流れた。
静かに 俯いて 涙を流す啓子。
「ねえ 食事しようよ。冷めちゃうよ。」
呼吸を整えて 顔を上げた啓子に 聡は言う。
「胸がいっぱいで。食べられるかな。」
ポツンと啓子が呟く。
聡の胸を 愛しさが込み上げて 抱きしめたい衝動を抑える。
「レストランで泣かれるの 二回目だね。」
少し茶化して 聡が言うと、
「今日は、うれし涙だから。」
と言って 啓子は 恥ずかしそうに微笑んだ。