紡ぐべき糸

入社して 二年が過ぎた頃 同期入社の 林 啓子《はやし けいこ》が 熱い視線で 聡を見ていることに 気付いた。
 

啓子は 地元の短大を卒業して 総務に 配属されていた。


聡より 二才年下の啓子。

特に 美人でもないし 明るく打ち解けてくる タイプでもない。


朝礼の後 啓子は みんなにお茶を淹れる。
 

「ありがとう。」

と聡が 顔を上げると 頬を染めた啓子と 目が合った。
 


聡は 二年以上 全く 啓子の存在を 意識しなかった。


聡自身 仕事を覚えることに 必死だったから。
 

『もしかして この子、俺に 気がある?』


仕事に 少し余裕ができたから 聡は 啓子の視線に 気付いた。


誰かに 好かれていると思うことは 悪い気はしない。


でも聡は 啓子に 恋愛感情を 持てなかった。
 

「林さん この間の書類 あれで 大丈夫だった?」

仕事の話題以外 話すことはない二人。

それでも 啓子は 聡が 話しかけると 嬉しそうに 頬を染めた。
 

「はい。大丈夫です。」

気が利いた返事が できない啓子とは、会話が続かない。
 

「林さんって、おとなしいね。」

聡が 苦笑して言うと 啓子は 更に 顔を赤くして、
 

「そんなことないです。」

と首を振る。




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