紡ぐべき糸
10
啓子は 相変らず 聡を 熱く見つめている。
聡からは 何も 言わないまま 仕事に追われていく 毎日だった。
その年の バレンタインデーに 聡は 啓子に チョコを渡された。
「あの。これ。」
朝 営業に出る聡を 啓子は 外まで 追い駆けて来た。
「俺に?」
聡は 戸惑って 啓子を見る。
啓子は 顔を赤くして頷いた。
「ありがとう。じゃ、行ってきます。」
聡は 綺麗にラッピングされた 包みを受取ると 商用車に乗り込む。
『参ったな』と思いながら 車を発進させた。
昼に 車の中で 食事をしながら ふと思い出して チョコを開けてみる。
赤い箱の中に 小さなハートのチョコが いくつか入っていた。
「マジか。」
聡は苦笑して 一人呟く。
ひどく心が重い。
聡は 啓子のことを 抱きたいと 思えなかった。
聡にとって それが 恋愛の基準だった。
いくら良い子でも 女性として 意識できなければ 恋人にすることはできない。