紡ぐべき糸
少し 黙って俯いていた啓子。
聡も 無言で コーヒーを啜る。
「あの、横山さん。好きな人 いるんですか。」
啓子は 顔を上げて 聡を見る。
それを聞いて どうするんだと 聡は思いながら、
「うん。片思いだけどね。」
好きな人と言われて 聡の心に 浮んだのは 美咲だった。
「告白しないんですか?」
啓子は いつになく 食い下がる。
「何度も 告白しているけど 相手にされないよ。」
聡は 正直に答える。
「横山さんでも?その人 どんな人ですか。」
聡の言葉に 啓子は 驚いた顔で聞く。
「すごく綺麗で 頭が良くて。自分に 芯が通っていて 努力家だよ。」
聡の答えを 啓子は 静かに聞いていた。
言いながら聡は 無性に 美咲に会いたくなる。
「そんなすごい人。」
啓子は ポツンと言う。
「そう。すごく 魅力的なんだ。優しくて 一緒にいると 癒されて。」
何故 この子に こんなことを 言っているのだろうと 聡は 自己嫌悪に陥る。
「私じゃ どんなに頑張っても 敵わない。」
啓子は そう言って 寂しそうに俯く。
聡は笑いながら、
「俺も 全然 敵わないんだ。」
と言う。