紡ぐべき糸

12


その夜聡は 無性に 美咲と 話したくなっていた。


でも バレンタインデーだから。

美咲は 恋人と 過ごしているかもしれない。


美咲から 返信がこなかったら もっと 寂しくなると思いながら それでも 聡は 堪えきれずに 美咲に メッセージを送ってしまう。
 

《こんばんは》

十時過ぎ。聡のメッセージに 美咲は すぐに返事をくれた。
 
《こんばんは。こんな時間に 珍しいね》
 
《美咲 今 一人?電話してもいい?》

聡は どうしても 美咲の声が 聞きたかった。


返事の代わりに 美咲から 電話をかけてくれた。
 

『もしもし。』

という美咲の 優しい声を聞いた時 聡は 懐かしさと愛しさで 泣きたい気持ちになった。
 
『美咲。元気?』

溢れる思いを抑えて 聡は 明るく話す。
 
『元気よ。横山君こそ。どうしたの?』

察しの良い美咲に 聡は 甘えてしまう。
 
『美咲の声が 聞きたかっただけだよ。バレンタインデーなのに 美咲 一人なの?』
 
『一人よ。横山君こそ。』

美咲は クスクス笑って 聞き返す。
 
『俺は さっき 彼女と別れたの。明日も 仕事でしょう。』

嘘半分 本当半分に言う聡。
 
『偶然。私もよ。』

美咲が 笑いながら 言うから 聡はつい、
 

『美咲、彼氏いるの?』

と真剣に 聞いてしまう。
 
『秘密よ。それより横山君 仕事は順調?』


美咲は 明るく 話題を変える。




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