紡ぐべき糸

秋の放課後 美咲は 校庭の水道で 水を飲んでいた。
 

「本城《ほんじょう》さん、何で そんなに 走っているの。」


聡は 隣の蛇口から 水を飲んだ後で 美咲に話しかけた。
 

「何でって。部活だから。」


美咲は いつもと同じ 気負わない態度で 聡に答える。



走った後の 荒い呼吸で 体操服の袖で 汗を拭いながら。
 

「だから、何で 陸上部なの。」


聡は プッと 笑いながら、もう一度聞く。
 

「球技 苦手なの。他に入る部活 無かったから。」


美咲は あっさりと答える。


微かに微笑んで 聡と目を合わせた後で 
 

「じゃあね。」

と言って 校庭に戻って行った。


聡が 次の言葉を 捜している間に。


全く 取りつく島がない美咲。



聡も苦笑して 体育館に戻った。
 


美咲は 他の女子のように 聡に媚びない。


だから 気になっていたのかもしれない。



自分を 人気者だと思っていた聡。


聡に 興味を示さない 美咲の気を 引きたかったのかもしれない。
 
 


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