紡ぐべき糸
成田に着いて その夜は 美咲の部屋に 泊まった聡。
昨夜の激しさは 美咲の決意だと 聡は 気付いていた。
美咲は 少しずつ 聡から 離れる準備をしている。
結婚する気がない美咲は 聡を 解放しようとしていた。
「美咲。俺は 今のままでいいんだ。結婚なんて したくないから。」
美咲を 抱き締めて聡が言うと 美咲は 寂しそうに微笑んだ。
「ありがとう。」
と言って 聡の胸に 寄り添う美咲。
成人式の後のように 美咲は 前を向いている。
聡を 解放すると同時に 自分も 解放されようとしている。
聡との 不毛な関係を 終わりにして 新しい道に 進む準備を 始めようとしている。
どんなに苦しくて 傷ついても。
ぬるま湯の中で 満足しない美咲。
ずっと昔 校庭を走っていた時のままに。
だから聡は 美咲に惹かれ 愛した。
そして美咲といると癒された。
昨夜の涙は 美咲も 辛い思いに 耐えていることを 聡に教えてくれた。
いつも 穏やかで 気丈な美咲なのに。
取り乱して 号泣して。
それでも美咲は 聡を 送り出そうとしている。
どんなに辛くても 聡も 美咲の思いに 応えなければいけないと思った。
美咲を 一生 支えることは できないのだから。
美咲の幸せを 願わなくてはいけない。
一年以上 聡に 夢のような時間を 与えてくれた美咲を 優しく 解放することが 愛だと聡も 気付いていた。