紡ぐべき糸
21
年が明けてから 聡の心は 少しずつ変わっていった。
美咲への 愛と感謝が 聡の 欲望を抑えた。
美咲に 会うことを我慢する聡は 少し翳りを纏い 大人の男になっていた。
《今日は 食事の時に チョコを渡します。コンビニで 待っています》
バレンタインデーの朝 チョコを 渡されなかった啓子から 昼休み 聡にLINEが届いた。
《了解!》
聡は 苦笑して 啓子に返信する。
美咲とは 時々 LINEは交わすけれど 聡は 旅行以来 美咲に 会っていない。
会いたい気持ちを抑え 仕事に集中する日々。
皮肉なことに 仕事は 順調に成果を上げていた。
「今年は 林さんから チョコは 貰えないと思っていたよ。」
退社後 いつものコンビニで 啓子を車に乗せて聡は言う。
「驚きましたか?」
啓子は 笑いながら 聡を見た。
「嫌われたと思ったよ。」
聡も苦笑する。
「寂しいと思いました?」
啓子に 聞かれて 聡は 声を上げて笑う。
「林さん 大人を からかっちゃ 駄目だよ。」
信号待ちのタイミング 聡は そっと啓子を見る。
「私も もう大人ですから。」
啓子は 一瞬 聡と目を合わせ そっと 俯いて言う。
「そうだね。林さんも 二十八才か。いい加減 結婚相手 捜しなよ。」
聡は 笑いながら言う。
「そうしたら 横山さん 寂しくなりますよ。」
と啓子も 笑って答えた。