嘘つきは恋人のはじまり。



『突然連絡したね。すまなかった』

『いえいえ。九条様にはいつもご贔屓にしていただいて私共は有り難い限りでございます』


部屋に案内してくれたスタッフと気さくに話す九条さんの会話から普段からこのレストランを利用していると分かった。


さっきは“接待によく使っている”と言っていたものの、正直ミシュランの三つ星レストランがそう簡単に予約を取れるなど信じられなかったのだ。


だが、彼の立場を考えればこのようなレストランや料亭はいくつか持ち札として持っておかないといけないのだろう。


……わぁ、綺麗。


案内された個室には大きな窓のある部屋だった。その窓から見える東京タワーがとても美しく、夜の東京の街を色付けていた。


思わず見入ってしまっていると対面からクスクス笑う声が聞こえる。慌てて居住まいを正すと目の前にメニューが広げられた。


『気に入ってもらえたようで良かった。できれば食事も気に入ってもらいたいのだが』


まだ少し笑いを堪えた彼の言葉に居た堪れずに俯いた。いくら食事とはいえ仕事できているのだ。九条さんの存在を忘れ、景色に見惚れていたことが恥ずかしい。




< 10 / 145 >

この作品をシェア

pagetop