嘘つきは恋人のはじまり。
「また倒れたの?」
トントントン、と小刻みにリズムを打つ包丁の音を聞きながらひとり呟いた。香月さんも木下さんも「梓だから」って言うけど、そういう問題じゃないと思う。というか、そんな無理して出てこられても会社としては問題なんじゃないか。
「痛っ」
いたたたたた。
うーーー。
手元に集中できていなかったせいで指を切ってしまった。最悪だ。まったくもう、なんで。
………。
テーブルの上に置いた携帯の画面は真っ暗のままだ。通知があればガジェットが浮かび上がるはずだし、ここから見える。
だけど。
香月さんに九条さんの状態を聞いたあと、メッセージを送った。G.W中、彼からメッセージが来ていたけど読んだまま放置していたのだ。
その申し訳なさもあった。だけど5年前のことを思い出して、またあんなことにならないかと少し心配していた。
あの時の、吐血した瞬間の映像は今も覚えている。咳き込んで手の隙間から漏れる液体が暗闇の中でも特に色濃く見えた。
送信したメッセージは既読はついていた。一応読んでくれたらしい。だけど返信はなかった。
きっと読んで寝てしまったんだろう。
そう思いながらもモヤッとする気持ちを抱え込んだまま、わたしはそれを頭の端に追いやって気にしないようにメッセージ画面を閉じたのだった。