嘘つきは恋人のはじまり。
【今どこ?】
携帯の画面にガジェットが浮かぶ。送信元は九条さんだ。どうしよう、と迷っているとすぐに着信に切り替わった。
「……もしもし?」
『玲?どこ?』
掠れた声が受話器から聞こえた。
それと同時に待っていたエレベーターが到着する。ポーン、とエレベーターの到着音が九条さんにも聞こえたんだろう。わたしが今どこにいるかも気づいてしまったようだった。
『玲、来て。部屋』
エレベーターの扉が開く。誰も乗っていない、わたしが呼んだエレベーターだ。これに乗って降りればいい。
G.Wにロバートと会って再確認した。彼が好き。彼が大切。だから彼を裏切ることはしたくない。彼を悲しませるようなことはしたくない。
『…玲』
縋るような甘えた声がわたしを引き戻す。受話器の向こうから感じる少し粗い息が彼の体調の悪さを物語っていた。
「…わかった」
看病するだけだもの。大丈夫。
わたしはエレベーターホールを背に、元来た道を戻る。すると、九条さんの部屋の扉がゆっくりと開き、部屋着のままの九条さんがふらふらと出てきてしまった。