嘘つきは恋人のはじまり。
体温計もない、薬もない。まったく何も食べていない。脱水症状も起こしかねないのにこんなの駄目にきまっている。
それならもう、病院に行ってしまった方が早い。
それなのに。
「……行かない。寝てれば治る」
九条さんは駄々をこねる。そんな彼を無視して土曜のこの時間でも診てくれる病院を探してタクシーを呼んだ。
「……玲も、いく?」
熱のせいで九条さんの目が潤んでいつもしっかりとセットしている髪はボサボサだ。その表情は捨てられた子犬のようで。
「一緒に行きますよ。だから服着替えてください。ね?」
ごねる九条さんを諭す。
「…わかった」
大人しく頷いてくれてよかった、とホッと胸を撫で下ろした。
病院に着けば、待合室の椅子に並んで座って順番が来るのを待った。九条さんはわたしに寄りかかりながら目を閉じて眉根を寄せている。
……相当辛いんだろうな。
タクシーの中でもずっとこんな感じでここまできたけど、意識が朦朧としているせいか声をかけても反応がない。