嘘つきは恋人のはじまり。
「九条さーん。九条梓さん」
予め電話をしていたおかげか、わりとスムーズに順番が回ってきた。診察室には一人でいける、と言い、わたしは九条さんの背中を見つめながら、少し上げかけた腰をその場に下ろす。
ふらふら、と歩く後ろ姿を見送って扉の向こうに消えたあと「ふぅ」と息を吐き出した。ここまで来るだけでわたしまで疲れた。
……ただの風邪ならいいけれど。
診断結果を気にしていると、少しして診察室から九条さんと看護師さんが一緒に出てきた。何か話をして、わたしの方を見ると2人は違う部屋に向かう。
「九条さん」
その様子を眺めていると、別の看護師さんに呼ばれてしまった。「九条さん」と呼ばれて、違うけど彼女はわたしを見て呼んでいたのは確かだったので返事をしないわけにもいかず。
「はい」
「これから点滴を打つことになりました。お熱は40度近くあり、少し脱水症状がみられたようです。疲労からくるものだと思います。抗生物質を処方しておきますので食後一日3回飲むようにしてください」
「点滴はどれぐらい時間がかかりますか?」
「だいたい40分ほどですね。ついててあげられますか?」