嘘つきは恋人のはじまり。



恥ずかしながらこの年になっても、夜景の見えるレストランで食事、なんてしたことがなかった。


恋人のロバートは飲食業を営んでいることもあり、あちこち食べ歩いたり色んなお店に行ったけど、高級レストラン、とまでいわなくてもちゃんとしたところで食事をしたことがない。


彼の手料理は文句無しで美味しいし、作ってくれることに不満はない。だけど、人生で初めてのことを仕事で、しかも知り合って間もない男性、ということに少しだけ寂しさを感じた。


『苦手なものはありますか?』


『いえ、特には…』


特に苦手なものはない、と知ると九条さんはいくつか提案をしてくれた。この店は初めてでよく分からないので全て彼にお任せした。


九条さんは先程案内してくれたスタッフ(胸元に責任者のネームバッジのある)にオススメは何か、や旬の素材やら何やら話してくれている。


日本に帰ってきたのは山崎慎太郎から依頼された仕事の為だ。期間は1年で、あと9ヶ月の辛抱である。そのことをぼんやりと考えながら、しばらく会えていない恋人に想いを馳せた。





< 11 / 145 >

この作品をシェア

pagetop