嘘つきは恋人のはじまり。
「はい、食べて薬飲んで寝ましょう」
九条さんは自宅に戻るなり、「シャワーを浴びる」と浴室に向かった。その間に買ってきたレトルトのお粥をあたためる。
まだ湯気のたつそれは卵の良い匂いがふわりと漂っていた。だけど病人様は、それをお気に召さないらしい。なぜか剥れている。
「………粥、しかもレトルト。作ってくれないのな」
「フライパンしかないので何も作れないですね」
「玲の作った飯が食べたい」
はい、でた。我儘。
それならちゃんとお鍋なりお米なり準備をしましょう。
冷蔵庫の中はスカスカだわ、鍋すらないわ。なにをそう不満げなのか分からない。自業自得なのに。
「治ったら作ります」
言いたいことを飲み込んでお粥の入ったお皿をズイッと彼の目の前まで寄せた。スプーンを渡せば渋々それを受け取りながらもやはり不満げな顔を隠さない九条さん。
この場にいるとまた何か言われそうだから、冷凍庫から氷枕を取り出してタオルを巻き、ベッドの枕のところに置いた。スポーツドリンクを冷やしたり、と食事後の準備をする。