嘘つきは恋人のはじまり。



 「お腹空いた」


九条さんを起こさないようにベッドから抜け出して、リビングに向かった。ソファーに腰を下ろしてぐぅーと背伸びすればお腹が鳴った。


時間を見れば午後11時を回っていた。さすがにランチを食べて半日近く経てば空腹にもなる。寝起きのせいで若干眠さはあるものの今は睡眠欲より食欲だ。



だけど九条さんと治るまでここにいるって約束してしまったし、どうしよう。


うーん、と悩みつつも、着替えもなければ歯ブラシや化粧品もない。


九条さんに聞けば色々出してくれるけど、病人にそんなことさせられない。


「…仕方ない」


わたしは立ち上がるともう一度寝室に戻った。そしてよく眠っている九条さんを確認すると、メモをテーブルに置いてこの家の鍵を借りてこっそりと玄関に向かった。


「……はぁああ、」


扉をそぉっと閉めてエレベーターに乗ったところで大きな溜息が出た。これから自宅に戻ってお風呂に入って、一泊分のお泊まりセットを準備してまた九条さん家に戻る予定だ。メモには『1時間で戻る』と書いた。タクシーを使えば自宅から九条さん家は5分ほど。食事はコンビニで何か買えばいい。


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