嘘つきは恋人のはじまり。



 九条さんが寝ている間のことを少しだけ話をして、まだ話したりなさそうな彼を宥めながら無理矢理寝かせた。いつも毅然として、クールで冷静な彼だが、今は熱のせいかすごく子どもっぽい。


「ここに居ろよ」


さっきから「今度出て行く時は寝ていても起こせ」とか、身体を起こしただけでそれを遮るように手が伸びてくる。暗闇でもわかるぐらい視線が鋭く、わたしを観察しているようだ。


「居ますよ」


だからわたしは九条さんの手を両手で包み込んだ。“そばにいるよ”という意味で。その瞬間彼の目が丸くなり、鋭さが和らいだ。


九条さんは安心したのか、わたしを信用してくれたのか、しばらくするとウトウトとしはじめ、すぐに小さな寝息をたてはじめた。


彼の手はまだ熱く、明らかに熱がある、とわかる。体温が高い。


どうか早く良くなりますように。


わたしは心の中で小さく祈りながら、満腹になったことと、時間も時間であるせいでいつの間にか瞼が落ちてぐっすり寝てしまったのだった。

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