嘘つきは恋人のはじまり。
朝起きたら九条さんはすでに起きていた。ただ、何も言わずにじっとわたしを見つめていた。目覚めた瞬間から無言で見つめられていて、恥ずかしさのあまり叫びそうになったけど、九条さんが嬉しそうに抱きついてきたから叫び声は小さな呻き声に変わった。
「ぐえって、失礼なやつだな」
いきなり勢いよく抱きしめられたわたしは九条さんを拒めるほど瞬発力はなかった。朝だし寝起きだし、と言い訳はしておく。
「いきなり抱きしめておいてなんですか、それ」
九条さんは文句を言いながらもわたしを離す気配がない。腕の中からモガモガしているわたしを楽しそうに見下ろしている。
「た、体調は?」
「昨日よりは良い」
「それは顔色見ればわかりますけど」
体温計はどこやったっけ、とキョロキョロ見渡して、サイドテーブルのペットボトルの隣にあるそれを見つけて九条さんに言った。
「熱、計りましょう!とりあえず、軽温!」
「敬語やめたら計る」
「わかったから!」
なんとか肩を押し返して腕の中から這い出ると急いでベッドから降りて体温計に手を伸ばした。そして有無を言わさず九条さんに軽温してもらう。