嘘つきは恋人のはじまり。
「37.8度」
ピピピピピッ、と鳴った体温計を取り出した九条さんはポツリと呟いた。一応わたしにも教えてくれたらしい。
「昨日よりだいぶ良くなったね」
昨日は40度近く熱があった、と看護師さんが言っていた。一晩で37度台に落ち着いたのは点滴と薬のおかげだろう。
「でも今日は安静。一日ゆっくり寝ること」
「玲は?」
「治るまでここにいるって約束したからいますよ」
九条さんはわたしの言葉に分かりやすく反応した。嬉しそうに笑い手を伸ばしてくる。
「ん」
「………なにが、“ん”?」
九条さんの言っている意味が分からない。いや、分かりたくない。ここで惚けた振りして逃げようとしたのだが、九条さんの方が一歩早く、逃げる間もなくベッドに逆戻りだった。
「ねぇ、今何時か」
「8:20」
「お腹すかない?とりあえず何か飲みたい」
生理現象である喉の渇きや空腹を訴え、九条さんから逃れると、昨日買い置きしておいたサンドイッチやおにぎり、そして、ヨーグルトやフルーツなどをテーブルにならべる。
九条さんものそのそと寝室から出てきてソファーに座るとわたしが飲む予定のカップスープの袋を開けてかやくを入れ始めた。お湯が沸くまでの間にわたしはヨーグルトを食べる。