嘘つきは恋人のはじまり。



 「……九条さん」


呼びかけて反応なし。九条さんが寝たことを確認すると、繋がれた手をそっと解いて寝室を出た。ホッとしたのはとりあえず寝室から抜け出せた安心からだろう。


「お昼、どうしようかな」


熱が下がった、といえどまだ38度近くある。昨日が40度近くあったからすごく回復しているんだけど、まだまだ病人。きっと辛いはず。


「栄養のあるもので」


わたしはひとりぶつぶつ言いながら冷蔵庫を開けさせてもらう。もちろん、この中に目ぼしい食品はない。それはわかっている。だけど、何があるのかも把握できていない。


「炊飯器もないのね」


せめてそれがあればフライパンでお粥でも作れる。九条さんにまた不機嫌になられることを覚悟しているけど、あまり刺激物を食べるのも違うし、固形物も避けた方がいいだろう。


「…一度帰ろっかな」


調味料もない。調理器具もない。
出来合いのものより、身体に優しいものがいい。


わたしは頭の中で何を作るか考えながら、寝室の扉を開けて九条さんが寝ていることを確認すると、昨夜と同じくメモを残して鍵を借りて玄関に向かった。


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